2011年3月5日土曜日

ホルスト・ヤンセンのドローイングと版画



日本の画狂人というと葛飾北斎ですが、ヨーロッパで画狂人というと、ドイツ生まれのホルスト・ヤンセンを指します。北斎の影響を色濃く受けているからだけでない、その自由で闊達な線描ゆえにそう評される。私は、彼の描写力と冷徹な眼が好きだ。この画家をこのブログで紹介するのは、4度目になります。ヤンセンの作品の多くは、ドローイングと版画(木版画・銅版画)です。紙に描かれたものと、紙に刷られたものが大半だということなのです。その作品数は膨大で、誰も把握していないぐらいです。制作の現場で、恋人や友人たちに作品を渡してしまうことが多く、把握できないのはその為でもあり、気まぐれで神経質な性格が生活を煩雑にしていたこともあります。晩年、画商が作品を管理することになりますが、ホルスト・ヤンセンその人を管理できようはずもなく、いずこかへ隠遁してしまうことも度々あったと言われます。この人の線は、その表現の掟(きまりごと)を逸脱するほどの生命憾があり、そのエッジは鋭い刃物で切ったような潔さがあります。繰り返される描線の激しさは、静と動の狭間を飛ぶ鳥のようでもあり、獲物は跡形も無くなる。なによりも、見ていて飽きない絵が多いことが魅力です。和紙に描かれることも多く、無造作に切られたりつぎたされたりと、その素材に残る痕跡に驚かされます。わたしも若い頃に、銅版画の制作をしていたことがあり、素材の質感が表現を解放してくれることもあります。テキストとしての江戸浮世絵(北斎・歌麿)や和紙の質感が、ホルスト・ヤンセンの表現領域をかなり自由にしたと思われます