2011年2月18日金曜日

ルドンの「ケンタウロスと龍」


ルドンの描く「象徴的な世界」が個人的に好きで、よく取り上げているのです。この「ケンタウロスと龍」は、ギリシア神話から題材を得ています。ケンタウロスが龍と闘っているところを描いていますが、闇の中に浮かぶその姿に、わたしはいつも静寂とむなしさを感じてしまいます。ケンタウロス(下半身が馬で上半身が人の姿)には、きわめて攻撃的(野蛮)なものと、知性を備えたものとがいます。むろん、その両方を持ち合わせたものも多くいたと思います。いずれにしてもギリシア神話では、英雄ヘラクレスの手でケンタウロス族は滅ぼされてしまいます。ケンタウロスの姿の裏に人間の姿をダブらせて見てしまうのは、わたしだけだろうか・・・。

ルドンの「蝶と花」


この「蝶と花」は、板に水彩で描かれています。水彩やパステルを使った作品が多いのもルドンの特徴です。頭の中に浮かぶイメージをすばやく描きとめるには、適した画材だと思います。ルドンは、蝶を繰り返し描いています。昔から蝶は、「死者の魂」の象徴とされています。おそらくルドンは、死のイメージを意識してこの絵を描いたものと思われます。若き頃、妹や弟の死を、ルドンは目にしています。幼い息子の死にも、立ち会うことになります。パステルの粉のように、ルドンの絵は、いつも危うくデリケートなものになります。ルドン自身、蝶のように彷徨しているように見えます。晩年、花を繰り返し描いていますが、この美しい花こそ「母親のイメージ」であり、この絵の片隅にも見られます。ルドンは、幼いときに母親に捨てられています。この『心の傷』が、すべての作品に見られます。わたしは、ルドンの絵に「風」を見ているのかもしれません。