レオナルドのノート(手記)は、 観察したことやそれらをもとに試みたことが記録されています。 残された資料は膨大ですが、 そこにはレオナルドの情感がほとんど見られません。 意識的に感情を排除したものと思われます。まれにですが、 メモの中にレオナルドの感情が読み取れる箇所があります。 そのひとつに、チェチリア・ ガッレラーニについて書かれたものがあります。 チェチリアの名前にtu(親しい人につける敬称) をつけて書いている(敬称voiが通常です)。「・・・ 崇高なるチェチリア、わが最愛の女神よ・・・」 と書かれているのです。再び『白テンを抱く貴婦人の肖像』 を眺めていると、成熟した知的な女性の表情が見て取れます。 いくつかのメモから、この賢い少女が、 画家レオナルドのアトリエを訪れていることがわかります。 ルドヴィーコ・イル・モーロは、 この肖像画には代価を払っていません。数年後、チェチリア・ ガッレラーニはルドヴィーコ・イル・ モーロ配下の伯爵家に嫁ぎます。この期間に、 レオナルドは2枚のマリアの絵を描いています。 レオナルドのメモにでてくる『鏡』は「客観的に見ること」 を意味するのですが、ここでは『時間』 を意味するのかもしれません。後年、チェチリアは「わたしは、 あの『肖像画のわたし』ではない」と言っています。