2011年1月25日火曜日

池田満寿夫の版画『部屋の中の死』




池田満寿夫さんの多くの版画作品から『部屋の中の死』を紹介します。池田満寿夫さんが版画をはじめたのは1956年、友人の画家・瑛九の勧めがきっかけでした。1966年の第33回ベネチア・ビエンナーレ展には、《天使の靴》《タエコの朝食》など28点を出品して版画部門の大賞を受賞。32歳の池田満寿夫さんは版画家としての名声を得たのです。これ以降、池田満寿夫さんはマルチタレント並みに活躍するのです。版画家としてだけでなく、小説や映画制作まで幅広い表現を試みることになります。この版画『部屋の中の死』は1974年の作品です。「不機嫌な時期」と言われる頃に制作された1枚ですが、わたしには強く印象に残っている版画です。この頃の版画には、画面を横切る線や引っかき傷が描かれることが多くなります。小説『エーゲ海に捧ぐ』が書かれたのもこの頃だと思いますが、表現がストレートになり感覚的になってきた時期でもあります。池田満寿夫さんの多くの版画には感覚的なイメージの合成にすぎない作品も多いのですが、この作品『部屋の中の死』には『異質なもの』を感じたのかもしれません。わたしたちは、視覚的な異様さには敏感に反応するのですが、この作品にはその異様さを感ずるのです。池田満寿夫さんの本『思考する魚』には、その頃の「重苦しい感情」が書かれています。そのせいか、この作品『部屋の中の死』には、素直に陰鬱なものを感じてしまうのです。

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