オランダ人画家キース・ヴァン・ドンゲン、 20歳の頃にはオランダからパリに移り住み、 マティスを中心とするフォーヴィスムに参加し、 力強い色彩と官能的表現で次第に頭角を現した。 売れっ子の肖像画家としてパリ社交界の寵児となったドンゲンは、 その強い個性と奔放な作風で大いに注目される。 1929年の世界経済大恐慌、1933年のヒットラーの登場、 そして1936年のナチス・ドイツのラインライト進駐、 スペイン内乱と続く、一連の変動の中で、 そのような甘い生活は泡沫のように消えて行ったのである。 その後のドンゲンは、1968年に91歳で没するまで、 南仏のコート・ダジュールに隠棲した。最後まで描き続けたが、 かつての官能性も洗練も失われて、 老後の余技といった作風に堕してしまった。
わたしがまだ若き頃、一時期「マチスの色彩とその独自の構成」 に惹かれていた。同じ頃に、「ヴァン・ドンゲン」 の作品を見る機会があった。 マチスの洗練された画風のそれに比して、ヴァン・ ドンゲンの技法はかなり稚拙に見えたものです。ところが、 近頃はその「魅力」に囚われている。 冷静でいられない感情が入り込むことで、表現が大きく変化する、 制御できないパトスこそが「創作の源泉」ではないか・・・ そう思うのです。年齢とともにパトスが鎮静し、 それに反比例するように表現技術が習熟する、結果として、 線も色彩も画面に心地好く収まってしまう・・・。「 綺麗で心地いい絵」が多いことに、気づく。 わたしだけでないのかもしれない・・・。
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